能登半島1周(後編)
午前3:00。顔にかかる水しぶきで目が覚める。
まだ暗闇の中、あまりの出来事に言葉を失う。雨が降っているである。
雨を避けられると思っていたが、その効果はたいしてなかった訳だ。

勢いを増す雨に抗う事も出来ず、シュラフとマットを片付け、トイレに逃げ込む。
トイレの中は完全に雨をシャッタアウトできるが、寝る場所は無い。
仕方が無いのでシュラフを仕舞い込む。

片付け終わると、ヘルメット、ジャケットについた水滴を振り払う。
さて、どうした物か・・・。
とりあえず、自販機で買ったホットコーヒーで気を落ち着ける。

トイレの建物にもベンチはあったが、そこも雨を避けるには至っていない。
すると、身障者用トイレとの間に雨を避けられる場所があった。
人目を避ける事は出来ないが、背に腹は替えられず、再びそこにマットとシュラフをセットする。

少し気が昂ぶっていて、それを落ち着けるのに一杯やる。
そして今日の道程を考える。
晴れるものだとばかり思っていたので、能登半島1周を計画していたが、雨が続くとひたすら帰るしかない。
今、その事を考えると、落ち込みが激しいので、明るくなるまで寝る事にする。

午前5:30。道の駅を訪れる客の声で目が覚める。
耳をすますと、客は「今日は天気が良いね。」などと話をしている。
空を見上げると、月がはっきりと見えている。どうやら雨は止んでくれたようだ。
屋根つきベンチ。
トイレの脇。
気分を落ち着けて、もうしばらくシュラフの中で眠る事にする。
が、それも上手く行かない。
6:00過ぎには起きだしてシュラフを仕舞い込むと、雨に打たれていたX4に向かう。

びしょ濡れのX4をタオルで拭ってやると、荷物を積み込んでやる。
そして目一杯にチョークを引いて、イグニッションを回す。
相変わらず寝覚めは良い方だが、マフラーからはもうもうと水蒸気を吐いている。

水蒸気を落ち着ける為、何度となくアクセルを煽ってやるが、落ち着く事は無かった。
水温計を覗き込むと、良い具合にまで水温は上昇している。
まだ濡れているシートに、遠慮がちに腰を降ろすと、スタンドを仕舞い、ギアを1速へと送り込む。

さあ、帰らずに済んだぞ。
そう思うと、昨日は暗くてよく分からなかった道を走ることにする。

県道57号線を戻らずに穴水方面へと向かい、桜峠から県道26号線に入って柳田村に折り返す。
能登半島の県道はどこも2車線を確保していてペースが上がる。
柳田村からは、県道277号線に入って、再び白米の千枚田に向かうとする。

が、ここに来て状況は一変する。
にわかに雨が降り出し、その勢いを増して、私はすっかりびしょ濡れになる。
その雨も千枚田に着く頃には止んでいたが。

道の駅『千枚田ポケットパーク』で合羽に着替える。
念には念を入れて。
進路を再び北へ向け、禄剛崎を目指す。
出発してしばらく、道の駅『窓岩ポケットパーク』に着くとそこで記念写真を撮る。
道の駅『窓岩ポケットパーク』
すると、バッグにかぶせていた雨具が無くなっているではないか。
さっきの千枚田で忘れたのだろう。諦めきれず、探しに向かう。

道の駅に辿り着くも、雨具は無い。
諦めて来た道を戻ると、しばらくして雨具が落ちていた。
それを拾い上げて、テールバッグにしっかりと被せると、今度こそ禄剛崎に向かう。

昨日通った道なのだが、明るいとその印象は随分と違う。
249号線と分かれて、県道28号線に入ってもその印象は同じ。
県道28号線。
路面は依然としてフルウエットで、気を抜く事は出来ない。
断崖沿いの峠道を走り抜け、そこから狼煙方面に向かうと、禄剛崎だ。

禄剛崎灯台への案内は非常に分かりづらい。
が、なんとかその看板を見つけ、灯台を見に行くとする。
禄剛崎灯台。
珠洲岬を望む。
雲の切れ目から日が差し込む。
灯台の向こうは日本海が広がり、一面、海また海。
日差しが僅かに戻り始め、気分も上々になる。
灯台から戻ると、合羽を仕舞い込んで、県道28号線で能登半島の先端を周遊する。

県道28号線から、249号線に入り、見附島を訪れる。
小さく烏帽子状に海面から突き出た見附島は、この辺りの海にあっては異質な存在。
見附島(軍艦島)。
そこから恋路海岸はすぐそこにある。
恋路海岸が、何故恋路海岸なのか、その悲恋の物語を少々、紹介してみよう。
恋路海岸。悲恋の海岸。
約700年の昔、木郎の里の助三郎と、多田の里の鍋乃は、人目を忍んでこの浜で逢瀬を重ねていた。暗い夜、鍋乃のともす灯は助三郎の唯一の目標であり、愛する2人を結ぶ希望の灯でもあった。
鍋乃に思いを寄せるもう1人の男源次は、2人の仲をねたみ、灯を崖のはずれに移してだまし、助三郎は深い海から帰らぬ人となり、鍋乃も源次の求愛をしりぞけ、海に身を投げ、助三郎の後を追った。

この悲しい恋の物語を秘めた浜は、いつの頃からか「恋路」と呼ばれる様になったと伝えられる。

誰が源次のキャラだって?
俺の事か?
そんなバカな・・・。

249号線から県道35号線に乗り換え、九十九湾沿いを走る。
やけに海が近くまで押し寄せてきている・・・って言うか、岸が異常に低いだけなのか、満潮の時間だったのか。
県道35号線。九十九湾。
気分良く県道35号線を抜け、宇出津で249号線に入る。
昨日の晩も思ったのだが、この辺りの道路標識は不親切極まりない。分岐路の真上に標識が出てることなんてザラ。
おまけに、そんな標識すら出ていないものだから、道なりに進むと道を外れていたりする。

249号線という、動脈が通っているだけあって、その道に向かえば大事に至ることは無いが、何とかして欲しい物だ。

249号線に入ってしまうと、わき目も振らず、和倉温泉を目指す。
信号も少なく、至って順調に和倉温泉まで走ってこれる。
ま、温泉街が近づくと、多少なりとも混雑に出会うが。

和倉温泉街は沢山の宿泊施設があり、総湯を中心にして広がっている。
ぐるぐる、旅館街を彷徨う事、10数分。
案内板に従がって総湯を探し出す。ここで一風呂浴びようと思う。
和倉温泉、総湯。
料金は480円と、銭湯並。
中に入ると、サウナもあってのんびりと出来る。
温泉はと言うと、ここも塩味のする温泉だ。
最近、この類の温泉が多い気がするな。硫黄の香りとはとんとご無沙汰。

小1時間ばかし温泉でゆっくりとし、休憩所でジュースを飲む。
ジュースも随分と久しい感じだ。この頃コーヒーが続いたからな・・・。

一休みを終え、再びX4に跨る。
時間もあることだし、能登島巡りをして帰る事にしようと思う。
丁度昼時でもあり、腹が減っていたが、何が名産か良く分からなかったので、しばらく我慢をする。

能登島大橋から、県道47、257号線を走って島半分を周る事が出来る。
道も2車線を確保して、走りやすい。
島半分を1周するのに、10数kmと言った所だ。時間にしても10数分。
能登島。ひょっこり温泉から。
県道257号線。
能登島の周回路。
流すように島半周?すると、能登島大橋から戻ってくる。
そう言えば、249号線を和倉温泉に向かって走ってる間、見えていた橋とは違うようだ。
能登島にはもう1つの橋(ツインブリッジのと)を渡って入ることも出来るが、今回はパス。
能登島大橋を望む。
249号線から県道2号線に入ると、一路羽咋市を目指す。
県道2号線は、やや交通量が多いものの、十分快走できるが、飛ばしすぎても信号で引っかかるので、大人しく走ったほうが良い。

県道2号線が249号線に交差する辺りで、なぎさハイウェイの看板がある。
昨日は雨で断念したが、今日はそんな事も無い。なので、X4をなぎさハイウェイへと向ける。

なぎさハイウェイの入口は、路面に沢山の砂が浮いていて注意が必要。
それよりもなぎさハイウェイでの走行にも注意が必要なのだが。
なぎさハイウェイ。
いくら締まっているとは言え、所詮砂。
転倒でもしようもんなら、まず起こせないだろう。細心の注意はそこに払われる。

注意しなければならない事。それは急のつく動作だ。
ブレーキは勿論、ハンドル、アクセルも厳禁。
わだちも厄介な敵で、進路を度々乱される。自動車の往来も少なくは無く、ブレーキを掛ける事もある。
そんな注意を払った柔らかいブレーキも、無意味としか思えないくらい、車体が不安定になるもんだから、ビビリも入ってくる。

数kmに及ぶなぎさハイウェイを走りきると、249号線に戻り、そこから159号線に入ってしまうと、あとは来た道を引き返すだけなのだ。
時間的に、まだ余裕があったので、走れるところまで走ってから、北陸道に乗ることにする。

159号線から8号線に入り、金沢市内を抜ける。
意外にも8号線は順調に流れており、松任市、小松市と駆け抜ける。

前々のツーリングから、吉野家で牛丼を喰ってみたいと願望があったが、それが小松市内で達成される事になる。
吉野家で、並みの牛丼と卵を頼む。それでも330円。

並にしたのにはそれなりの理由があった。
北陸道に乗ると、PAで五平餅も食べたかったからである。
吉野家を後にすると、石川県から福井県に入る所でX4に給油を済ませ、金津ICで北陸道に乗る事にする。

給油の為に寄ったガソリンスタンドでは、X4について例の質問攻めに合う。
そう言えば、今回のツーリングではこれが初めてだった。
今回はさらに質問が増えていたが、丁寧に応えると、「気をつけて。」と送り出される。

金津ICからは少々風がきつかったので、90km/hで巡航する。
そして、北鯖江PAに寄ると目的の・・・であったが、閉まっている。気を取り直して次のPAを目指す。
クラッチを握る手が疲れ出して来ている。

高速道路は、クラッチ操作の必要なんて走り出すときだけなのだが、これが妙に苦痛だったりする。
ハンドルに伝わる振動も気になるといえば気になる。

次のPAといえば・・・、南条SAになってしまった。
SAならば、何なりとある。
SAによって、五平餅ではなくジャンボみたらしを買い、それに付け加えてホットコーヒーも買う。
それで手を温めて、疲労の回復を待つ。
南条SAにて。
『ジャンボみたらし』をたいらげる。
ジャンボみたらし2本を、ブラックの缶コーヒーで流し込むと、いよいよ帰るだけなのだ。
再び走り出すと、少々ペースをあげて、帰路を急ぐ事にする。

北陸道も木ノ本ICより下道に降りて、さざなみ街道で帰路に着く。
かなり車の数が多かったが、何とか流れは保っている。
が、それも彦根市内まで。
彦根市内からは、やや低調な流れとなり、クラッチを握る左手に疲労が蓄積する。

道幅のある所で、すり抜けするも焼け石に水
上がらないペースに苛立ちを隠せない。日はすっかり沈んでしまい、気温も下がり始めると、いよいよ私のテンションは下がり始めてくる。

極めつけは工事。
車線規制をしているそれは、延々と渋滞を作り続け、ストレスが溜まる。
工事を抜けると、家までは残す所10数km。ほとんど帰ってきたようなモノ。

無事、家に辿り着くと、なぎさハイウェイを走った為、X4に付着していると思われる潮を流してやる事にした。
我ながら辛いのに、最後の最後でX4をねぎらってやる。
お疲れ様。そして有難う。
さらにごめんなさい・・・。理由は聞くな!

本日の走行距離:550.2km
総走行距離:1048.0km
・・・テンションはやはり?下がってしまった。
お気楽放浪記 > X4
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